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木版画で昭和の東京まち歩き [歌舞伎町]

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今回の蔵出し写真は、大久保病院に隣接する高層ビル
東京都健康プラザ・ハイジア1階アトリウム「アートウォール」で開催されていた

山高登「東京の昭和を歩く」展 です

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「梅天神田司町」
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「吉原大門前」
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「宵宮」
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「根岸」
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大正15年に淀橋で生まれた山高登は
新潮社の元編集者で

内田百閒・志賀直哉・井伏鱒二・宇野千代・林芙美子など
錚々たる作家を担当していたそうです
わたしの少女時代の腹心の友「赤毛のアン」の出版を
新潮文庫で企画した人でもあります

自己流で木版画を始め、52歳で早期退職後
本格的に活動を開始しました

昭和の人々の暮らしの身近にある何気ない懐かしい風景を
約半世紀にわたり、鮮やかな多色刷りで描いた木版画家です




版画に添えられた、文学の香りのする
ご本人の文章を読みながら改めて版画のなかの風景へ思いを寄せると
「失ったものへの鎮魂歌、生き残ったものへの応援歌」が
聴こえてくるような気がしてきます



「下宿・泰明館」
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東京大学の筋向いの路地を入ったところにその学生下宿はあった。
玄関の正面を飾る懸魚の様式が明治風なデザインだが、そんなに古い建物だろうか。
しかし今にも石川啄木がひょっこり出て来そうな趣きがある。
玄関の入り口には学校で見かけるような下駄箱があった。
もうこんな下宿も少なくなった。


「本郷菊坂」
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菊坂の町名は明治時代、菊をつくる植木職人が多く多く住んでいたから
と言われている。この路地に樋口一葉が一年ほど住んでいた。
近くには彼女が通った質店伊勢屋も残っている。
路地の井戸は「一葉さんの井戸」と愛称されている。
近ごろ文学散歩でこの路地を訪れる人が多く住民は迷惑しているそうだ。


「真砂町夕景」
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菊坂の一葉旧居にほど近い右京山は明治時代広い草原で
和歌を作った一葉女子がしばしば虫聴きに訪れたところと伝えられている。
右京山跡の公園の一角に5,6棟のモダンな赤瓦の建売が向かいあって建っている景色は
若いサラリーマンの憧れであったにちがいない。
さすがに近年は老朽化がすすみ解体された家が多い。


「根津新坂」
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根津神社門前にあるこの坂を上がって行くと東京大学のある本郷通りへ通じる。
この坂を新坂とかS坂といったのは森鴎外で、小説「青年」に登場する。
坂の途中に古風なアパートがあって、そのたたずまいに心をひかれた。
車の通行は、まれである。
新坂というからには明治時代になって拡げられた坂であろうか。


「本郷森川町」
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この四つ辻に立つと、いつも本郷の屋敷町らしい風景だと思う。
古い交番、南京下見の歯科医院どちらも取り壊されたが
スナップショットの名手、木村伊兵衛がこの角度で写した写真が名高い。
この辻を右へ行くと旧本郷館の前へ出る。
左へ直進しても右へ直進しても西片へ通じている。
木村は本郷は屋敷が多いので写真を写すには高曇りの天気が最高
と言っていたが、歩いてみてなるほどと思った。


「暮春」
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ここも藝大に近い上野桜木町の路地。古い家の外壁を
野薔薇や八つ手、雪ノ下、羊歯などが覆って湿気の多い所である。
文化勲章を受けた作家の尾崎一雄が戦争末期に
大患で仆れる直前住んでいたのもこの辺りである。
桜木町には上野の学校に奉職する教師、作家、編集者など
文化人たちが静かに暮らしていた。


「渡船大つごもり」
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木版画を専業とする以前から、佃島は一番多く出かけた所かもしれない。
だからこの渡し船は、昭和39年8月に廃止されるまで、何度も見ていたから
目をつぶっていても描けるほど馴染み深い。時期を歳末に設定したので
三河萬歳の太夫や桃割れに結い上げた娘、仕事師なども乗客に加えた。
年末年始の佃の渡しは普段にも増して混んでいた。


「月島夏月」
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関東大震災の残土や瓦礫で埋め立てられて
広くなった月島の町は豊洲や深川の工場地帯で働く人たちの
住宅地として形成され、昭和の新しい町として栄えてきた。
隣の佃島が漁村の面影を残しているのとは対照的である。
月島は昭和の下町の路地や建物が今も残っていて画題になる。


「谷中五月」
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谷中から日暮里へ向かう路地にこの家はあった。
家の前は寺の長い塀で、ここを通るといつも某か花が咲いていて
草花を大切にしていることがうかがい知れた。
しかし家の出入りはさぞ大変だったろうなと思った。
或る時、いつもの景色を期待しながら通りかかると
この二軒はモルタル仕上げのすっきりした住宅になっていて
家の前には何も無かった。


「無縁坂暮春」
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不忍池の西側から東京大学の竜岡門へ通じる坂道が無縁坂である。
左は財閥岩崎小弥太邸、右は長屋の続く一角。高利貸の妾お玉が
東大生との交遊によって新時代に目覚める姿を、飛び立つ雁の姿に
象徴的に重ね合わせた森鴎外の小説「雁」の舞台となった坂。
坂の下に昔、かりがね(雁)壮という旅館があった。
長屋は今は高級アパートになっている。


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hirometai

はなだ雲様
素敵な版画の数々です。
懐かしく胸の奥に響きます。
木造の焼杉板壁や瓦屋根など美しく見事に再現されています。
ゆっくりと見学したいです。(^-^)
by hirometai (2020-06-28 12:46) 

Boss365

こんにちは。
山高登さん、独特な版画ですね。初めて知りました。
光の色彩が温かみあり、郷愁を感じさせる・ノスタルジーな仕上がりです。
「根津新坂」はよく歩いた場所、右曲りのカーブ?あります。
右側にある日本医科大学病院のスタバで時々お茶しています(爆)
田舎育ちですが・・・
下町の民家・路地風景は不思議に懐かしく感じます!?(=^・ェ・^=)
by Boss365 (2020-06-28 13:58) 

こじろう

はなだ雲さん,こんばんは♪
素朴で温かみのある版画だなぁ~(´ω`*)。
多色刷りだからかまるで絵本の挿絵のようにも思えると言うか,版画そのものが何か語り掛けてくるような感じがするなっ♪


by こじろう (2020-06-28 18:51) 

ぼんぼちぼちぼち

仰るとおり、そうそうたる作家さんの担当をされていたのでやすね。
独学で木版画を学んだとはあっぱれでやす。
中でも特に、あっしは本郷菊坂がいいなあと思いやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2020-06-29 15:10) 

song4u

驚いたなあ、雲ちゃん。
お世辞抜きに、お蔵入り素材が無尽蔵にあるんですね。
だって、もしコロナがこれ程までに長引いてなかったとしたら、
この素材もお蔵に入ったままの可能性大だったわけでしょ?
と言うか、こんな上質な素材をこの時期まで残してるというのは
一体どういう企みなのでしょう?
今頃になってこんなのが出てくるなんて、まったく驚きです。
ホント、びっくりだなあ。

トップの作品。
いつもなら「う~む、なるほど!」と感じることが多いけど、
今回だけはやや「??」って感じです。
この作品、どこが雲ちゃんの琴線に触れたのだろう?
ぼくだったら、「根岸」か、「吉原大門前」か。
いやいや、「宵宮」、「本郷菊坂」、「暮春」もいいなあ。
「月島夏月」もいいし、「無縁坂暮春」もいいなあ。
どれかひとつ、って言われたら「無縁坂暮春」かなあ。
え? 誰も聞いとらん? こりゃまた失礼!(笑)

皆さん仰るとおり、味わい深いですよねえ、木版画って。
版画が生まれたのは、元々は同じ絵を複製するためでしょう?
だけど、そういう意図とは別に、版画の持つ人間味というか
優しいタッチというか、そういうものが感性をツンツンと
刺激するからでしょうか、捨て難いものがありますよね。
不思議な魅力としか言いようがないなあ、木版画って。

木版画と言えば、以前、ブログ記事でもご紹介されていた
雲ちゃんの今年の年賀状、確か蛇の目の木版画でしたよね?
テレビ番組でやってたのがきっかけだったと書かれていたけど、
この作品群にも潜在意識的に触発されたのかな?

無縁坂と言えば、ぼくはやっぱり、さだまさし。
ぼくよりも2歳年上のさださん、こんな唄を23の時に書いた
というのだから、もう本当にグーの音も出ません。
この人の凄さは筆舌に尽くし難いね(記事とは無関係でスマン)。
https://www.youtube.com/watch?v=QtQtJEBeV_w
by song4u (2020-07-04 22:15) 

はなだ雲

hirometaiさん、こんにちは
「焼杉板壁」わたしも好きです
いつまでも見ていられます^^
今では見ることが出来なくなった懐かしい昭和の風景も
木版画でならいつでも旅することが出来ます♪

Boss365さん、こんにちは
正直いうと今回撮った写真は
色合いが現物と全く違うし、画面は歪んでいるし
ご本人やファンの方々がご覧になったら怒られるかも
・・なんかスミマセン笑
根津新坂はお馴染みの場所でしたか♪
坂の急斜を利用して
体育会系の部活のひとたち(たぶん東大生)が
よくトレーニングされてます^^
わたしも田舎育ちですが、おなじく
下町の民家・路地風景を不思議に懐かしく感じます♪

こじろうさん、こんにちは
版画がなにか語り掛けてくる・・いいですね^^
そういうなにかを語り掛けてくるような
写真をいつか撮ってみたいとおもいます♪

ぼんぼちさん、こんにちは
そうそうたるメンバーですね
ご本人も優秀だったと思うけど
出版社もすごいと思います
こどものころ
東京の出版社はいちばん憧れの場所でした^^

song4uさん、こんにちは
お世辞じゃないのは嬉しい限りです笑
この写真は前職でハローワーク歌舞伎町庁舎に
お使いに行く途中に急ぎ足で撮った写真で
お昼休みならともかく
仕事中に撮ったうしろめたさから
記事にはしてませんでした
あせって撮ったから画面歪んでるし★

こんかいのトップ写真「??」でした?
ピンポーン正解です!笑
1枚目2枚目の写真だけ作品タイトルがわからなかったので
仕方がないので最初に持ってきました
いつもながらコワいくらいに鋭いご指摘
ありがとうございます♪

そういうのがなければ「無縁坂暮春」か「本郷菊坂」か
もしくは「下宿・泰明館」がトップ写真だったかな♪

木版画は摺るときに木目が出るのが一番すきで
わざと、かすれて摺ってみたいなと
技術さえあればそう考えるとおもいます^^

さだまさしの出身地は長崎なので
長崎にも「無縁坂」という名前の坂があって
そこを舞台にした歌なのかなとなんとなく思っていましたが
あの曲の舞台は東京文京区のこの坂だったんですね!
忍ぶ不忍無縁坂は、不忍池とかけてたのかぁ
改めて曲を聴いてみて今更ながらわかりました
それにしてもいい曲でしみじみ泣けてきます
by はなだ雲 (2020-07-05 09:17) 

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